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生涯現役社会の実現を目指す記憶力を向上させるアプリが海外論文誌に掲載

医療・ヘルスケア分野のスマートフォンアプリ・Webシステムを開発しているヘルステック・ベンチャー企業のキュアコード株式会社(代表取締役:土田史高 本社:富山県富山市 以下キュアコード)は、国立大学法人富山大学大学院医薬理工学環メディカルデザインプログラムの田端俊英教授らの研究グループとモバイルアプリを用いたエピソード記憶の加齢性減退検出と記憶定着促進の可能性について共同研究を実施した論文が、学術誌『Medicine』オンライン版に掲載されましたのでご案内します。

この研究ではエピソード記憶(出来事に関連する感覚、情報を連合した記憶)能力の加齢性減退の検出と、有酸素運動を用いた能力の向上を、スマートフォンアプリ『Statice(スターチス)』(特許出願中)を用いた研究で実証し、機能することを示しました。

■論文掲載先
Medicine October 27, 2023 – Volume 102 – Issue 43 | Assessment of memory recognition using a smartphone-based test system: A pilot study 

■エピソード記憶とは
エピソード記憶とは「いつ、どこで、何をした」のように自分が体験した出来事に関する記憶であり、長期記憶に区分される中でも加齢の影響を顕著に受けるとされています。認知症のなかでもアルツハイマー型認知症では、特にこのエピソード記憶の障害が目立つとされています。

■研究の背景と意義
 日本では少子高齢化が進み、多くの産業分野で深刻な人材不足が生じています。近年、産業の知識集約化が進んでおり、高齢者が働き手として活躍し続けられる“生涯現役社会”の実現を目指すためには、記憶力をはじめとする認知機能の加齢性減退を予防・改善することがその鍵を握っています。
認知機能の低下はわかりにくいものですが、エピソード記憶は、認知機能の中でも最も加齢による衰えを示すことが知られています。エピソード記憶の能力を評価することで、加齢性減退の検出に役立ちます。しかし、エピソード記憶の評価を行うためには、被験者が何度もテストを受ける必要があり、正確な学習と再認識のテストも必要です。
また、エピソード記憶を強化する試みとして、軽度の有酸素運動を行って脳酸素供給を増やすことで記憶の固定を促進できることが知られていますが、専門家の指導のもとで運動を実施することが難しいという課題がありました。
 

■Staticeについて
富山大学とキュアコードで開発したStaticeは難しいエピソード記憶の検査をスマートフォンで手軽に実施できるようにしたものです。さらにウェアラブル端末と組み合わせて、適度な有酸素運動量を指示することで、記憶の定着を促進する機能を実装したもので、この度の研究でその有効性が示唆されました。
個人が手軽にエピソード記憶の加齢性減退を把握することができるだけでなく、エピソード記憶の強化に活用できる可能性があります。また大規模被験者集団に使用して、ビッグデータ解析による医学的研究に使用できます。将来的に予防や治療などの医学研究に結びつけることも期待できます。

図1 Statice アプリによる検査手順(抜粋)
 

■研究について
若年層66名と高齢層39名の参加者を「運動するグループ」と「運動しないグループ」に無作為に分け、心理学的研究で用いられている厳密なエピソード記憶能力検査をスマートフォン上に再現した記憶認識テストを実施しました。試験参加者の気分が検査成績に影響するか確認するため、各セッションの開始時と終了時に、ポジティブ・ネガティブ感情スケジュール質問票(PANASQ)を用いて回答を得ました。
最初のセッションでは、参加者はスマートフォンの画面に表示された90枚の写真に対して画像分類の課題を行いました。課題の直後に、運動するグループは軽い有酸素運動を10分間行い、運動しないグループ機能は10分間平静を保ちました。どちらのグループもウェアラブル端末を装着し、脈拍を計測することで有酸素運動を一定の強度で実施している、または運動していないことを検出しました。
48時間経過後の2回目のセッションでは、参加者に課題で見たことのある90枚の写真と、新しい90枚の写真をランダムに見せ、見たことがあるかを尋ねるテストを行いました。これによりエピソード記憶の定着を検査しました。
 

■結果
正答数から誤答数を引いた認識スコア (RS)を算出し、年齢と有酸素運動の有無、PANASQ の影響を元に分析を実施しました。


図2 スマートフォンアプリを用いた認識スコア評価
 

運動していない群で比べると、高齢参加者は若年参加者に比べ、RS が40%から50%低いことがわかりました。さらに若年参加者のRS比較では、有酸素運動したグループは、運動していないグループのスコアを最大で40%改善しました。またRSはPANASQのスコアと相関がなく、本研究の再認識試験は被験者の気分にあまり影響を受けずにエピソード記憶能力を評価できることが分かりました。

これらの結果から、スマートフォンアプリでも、従来研究室で行われてきた心理学的実験と同様にエピソード記憶能力の加齢性減退が検出できることが示されました。また、スマートフォンでエピソード記憶を強化できることが示されました。このことは、スマートフォンアプリとウェアラブル端末を用いた大規模な記憶力・認知機能調査の実施や、記憶力維持・向上のためのヘルスケアサービスの実現可能性を示しています。
富山大学とキュアコードは今後も研究の継続と実用化に取り組んでいきます。

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